野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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口の中

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ABHAngina Bullosa Haemorrhagica ( ABH ) とは、主に食事中口の中に突然できてしまう血豆。
悩んでいる人が結構多いのに、認知している医師があまりおらず、日本語名すらないという疾患です。


私自身にも時々起こるので、この経験と医学的見地をわかりやすくまとめたのが「口の中にできる血豆、ABHを詳しく解説」です。
反響が大きく、一人で悩んでいたけれども ABH だと知ってスッキリしたと、感謝のお手紙やFAXをいただいたこともあります。
これといった予防法や治療法はないのですが、何もわからないよりも情報が少しでもある方が安心感はあるのかな、と思っています。


ABHに悩んでいる人もそうでない人も、一度は目を通して参考にしていただきたい記事です。( → こちら )

◆ ABH - 口の中にできる血豆

ABHAngina bullosa haemorrhagica
(ABH) という疾患があります。
名前を聞いてもピンと来ないでしょう。
一般の方にとっては当然としても、医師にもあまり認知されておらず、医学部の学生時代に習ったこともありませんし、日本語名すらないという疾患です。
この疾患、簡単に言うと食事中に口の中に血豆 ( 医学的には血疱〈けっぽう〉と言います ) ができる病態なんです。

医師にも十分知られていない疾患ですが、悩んでおられる方は潜在的には多いのではないかと考えられます。
ツイッターで「口の中 血豆」というキーワードを使って検索をかけると、1日にいくつものつぶやきがヒットします。
このコラムへのアクセスも毎日多数に及びます。
しかし、この血豆のことで病院を受診される方は稀なので、医療者側がその実態を十分に把握できていないのが現状です。

実は、私はこの疾患を随分昔から持っているんです
インターネット上でもあまり多くの情報を得られませんし、ましてや正しい内容のものが少ないのが現状で、自身の経験を踏まえながらこの疾患を解説してみたいと思います。


◆ 口の中に血豆ができるのはどのような時 ?

煎餅まず、発生するのはほぼ食事を摂っている最中で、舌や頬を噛んでいなくても起こります。
豚カツなどを口の中でモグモグしている際に、揚がったパン粉が口の粘膜にチクリと刺さるような痛みに襲われます。
するとその部分が瞬く間に膨れてきて赤黒い血豆が形成されます。
揚げ物以外にも、せんべいやピザの焦げた部分、ナッツ類、小魚のおつまみ、大学イモ、エビの殻、ソフトクリームのコーンなどで血豆ができたことがあります。
硬くてカリカリしているような細かいかけら状のものであれば、何でも原因となり得るようです。

この血豆は、文献上では軟口蓋部分にできやすいとされています。
私の場合は、歯肉、硬口蓋、頬粘膜、舌など口の中の至る所にできるのですが、軟口蓋の部分にはあまりできません。
なお、舌については側面および口腔底側 ( 舌の裏側 ) にはできますが、表側にできた経験はありません。

( ※ 硬口蓋は、口の中の上の壁のうち、骨があって硬い部分。軟口蓋は、硬口蓋よりも後方の柔らかい部分のことを言います。)


表面を覆う膜 ( 被膜 ) は結構頑丈なので、できた血豆が簡単に潰れることはありません。
何もしないで放っておくと1-2日はそのまま残ってしまうことがありますが、やがて自然に潰れて中に貯まっていた血が流れ出てきます。
血豆がある時も痛みがありますが、潰れた直後の痛みが一番つらいですね。
被膜が剥がれてびらんと呼ばれる傷となり、やがて跡を残さずに治っていきます。

なお、軟口蓋部分ののどちんこに近い部分にできると、物を飲み込む時に陰圧となる影響を受けて、被膜の中に溜まる血液が増えて次第に大きくなる上に、血豆がのどの奥の方へズルズルと這うようにずれていくことがあります。
血豆が地を這うようにずれていく時はたまらなく痛いです。

ちなみに、血豆が大きくなって呼吸困難をきたしたという症例も報告されています。


◆ ABHの原因は・・・?

なぜこのような血豆が形成されるのか、残念ながら原因がはっきりわかっていません。
私の場合、血縁者にABHを持つ人は全くいませんので、遺伝性はないと考えています。

熱いスープで口腔内の粘膜が脆弱になることも一因とされています。
確かに、私は熱い物が大好きで、みんながフーフーして冷ましながら飲むお茶も平気です。
自分自身をよく観察してみると、熱いものを食べた際に血豆ができやすい傾向があるように思います。

文献上では、中年以降に多く、口腔アレルギーとの関連が言われていたり、ステロイドの吸入剤を使用している人に多いなどとされています。
しかし、私の場合、少なくとも中学校の頃には既にこの疾患に悩んでいたと記憶しています。
エビに対するアレルギーを持っているものの、吸入ステロイドは使用していません。


◆ ABHの予防法と治療は ?

原因がわかっていないので、残念ながら確実な予防法はありません。
慌てずゆっくり食べろ、と指導する以外にないのですが、実際にそれは無理です。
個人的にも原因となりうる食材を食べる際に注意深くゆっくり噛んでいてもチクリ、と感じて血豆ができるケースもしょっちゅうです。
生きていくために摂食行動は欠かせませんので、根本的な予防法はないと考えて下さい。

ただ、ここ数年、私は熱い物の摂取を控えるようにしていますが、それが奏功したのか発生頻度が明らかに減ってきました。
このブログを読んで当院へ来院される方に尋ねると、熱い物が好きという答えが返ってくることがほとんどです。

治療法も確立していませんし、この疾患をしっかり理解しているのも一部の耳鼻科や口腔外科の医師に限られ、病院に行っても特別な処置をしてくれるわけではありません。
そこで、私なりの対処法を紹介しておきたいと思います。

爪楊枝それは、できた血豆を爪楊枝でさっさと潰してしまうという荒技です。
先ほども述べたように、被膜は案外丈夫なので簡単には潰れませんし、場所によってはかなり痛いですけれども、頑張ってみましょう。
( 潰すのにアイスピックを使うという方に出会ったことがありますが、ちょっと怖いですね。)
潰した後は中から血が出てきますが、基本的に血豆に貯まっている分だけしか出てきません。
ただし、血を残さないよう陰圧をかけるなどして絞り出すのが肝要。
少しでも残っていると治るのが遅くなってしまいます。
この処置が終わったら、アズレン系のうがい薬を使って1日に数回、口をゆすぎます。
アズレン系のうがい薬は、痛みを和らげ傷を早く治す作用を持っていますので、欠かせない作業です。
これで、1~2日のうちに気にならなくなります。

最近は、うがい薬に加えて半夏瀉心湯を処方することが多くなりました。
半夏瀉心湯も、アズレン系のうがい薬同様に口の中の傷を早く治してくれる働きがあります。
両方を使うことで、痛みの緩和や治りが早いと好評です。
ただし、半夏瀉心湯の影響で便秘がちになることがあります。

血豆をそのままにしておくと、いつまでも痛いだけです。
やや乱暴な方法ですが、できるだけ速やかに潰してしまうことをお勧めします。


◆ 日本語病名の提唱

個人的には、特発性食道粘膜下血腫という疾患との関連性はどうなのだろうかと注目しています。
内視鏡検査で、食道の入り口の手前の梨状陥凹という場所や食道に血豆ができている例に遭遇することもありすま。
いかんせんお目にかかるのが稀なので、今のところABHとの関連は見い出せていませんが、口の中も食道も表面の粘膜の構造は同じなので、口から食道にかけて発生してもおかしくないと考えています。

もっと多くの症例を集積して知見の積み重ねが必要な疾患だと思いますが、この ABH という疾患名は病態をしっかり表現しているとは思いませんし、日本語名がないのは残念です。
そこで、この疾患を個人的にも抱えている医師として、日本語の疾患名を提唱してみたいと思います。

突発性有痛性口腔内血疱

いかがでしょうか。


※ 2015年1月に書いた「口の中に突然できる血豆、ABH」に加筆して、新たに綴ってみました。


関連するコラム
●  口内炎には半夏瀉心湯


( 2022年7月12日、加筆更新 )



口の中 血豆 ABH(この疾患に悩む方が多いようで、非常に多くののアクセスをいただいておりますが、この記事を元にして加筆した新しい記事を作成しております。そちらの方を是非参照して下さい。 →→ 口に中に突然できる血豆、ABHを詳しく解説 )


◆ ABH - 口の中にできる血豆



Angina bullosa haemorrhagica (ABH) という疾患があります。
一般の方は当然としても、医師にもあまり認知されておらず、医学部の学生時代に習ったこともありませんし、日本語名すらないという疾患です。
この疾患、簡単に言うと食事中に口の中に血豆 ( 医学的には血疱〈けっぽう〉と言います ) ができる病態なんです。

医師にも知られていない一方で、この疾患に悩む方は潜在的には案外多いと考えられます。
実際、このコラムへのアクセスは非常に多いですし、ツイッターにて「口の中 血豆」というキーワードで検索すると1日にいくつものつぶやきがヒットします。
しかし、病院を受診される方は稀なので、その実態が十分に把握できないでいます。

実は、私はこの疾患を昔からずーっと持っています
インターネット上でもあまり多くの情報を得られませんし、ましてや正しい内容のものもかなり少ないので、自身の経験を踏まえながらこの疾患を解説してみたいと思います。


◆ どのような条件下で口の中に血豆ができるのか

まず、発生するのはほぼ食事を摂っている最中です。
誤って舌や頬を噛んでいなくても起こってしまいます。
豚カツなどを口の中でモグモグしている際に、揚がったパン粉が口の粘膜にチクリと刺さるような痛みに襲われます。
するとその部分が瞬く間に膨れてきて赤黒い血豆が形成されます。
フライ以外にも、せんべいやピザの焦げた部分、ナッツ類、小魚のおつまみ、大学イモ、エビの殻、ソフトクリームのコーンなどで血豆ができたことがあります。
硬くてカリカリしているような細かいかけら状のものであれば何でも原因となり得ます。

この血豆は、文献的には軟口蓋部分にできやすいとされています。
私の場合は、歯肉、硬口蓋、頬粘膜、舌など口の中の至る所にできますが、軟口蓋の部分にはあまりできません。
なお、舌については側面および口腔底側 ( 舌の裏側 ) にはできますが、表側にできた経験は私自身はありません。

( ※ 硬口蓋は、口の中の上の壁のうち、骨があって硬い部分。軟口蓋は、硬口蓋よりも後方の柔らかい部分のことを言います。)

血豆の表面の被膜は結構頑丈で簡単に潰れることはまずありません。
そのため、何もしないで放っておくと1-2日はそのまま残るケースが多いですが、やがて潰れて中に貯まっていた血が流れ出てきます。
血豆がある時も痛みがありますが、潰れた直後の痛みが一番つらいですね。
被膜が剥がれてびらんと呼ばれる傷となり、やがて跡を残さずに治ってしまいます。
なお、軟口蓋部分ののどちんこに近い部分にできると、嚥下時に陰圧となる影響を受けて次第に大きくなり、血豆がのどの奥の方へ這うようにずれていくことがあって、この時はたまらなく痛いです。

ちなみに、血豆が大きくなって呼吸困難をきたした症例も報告されています。


◆ ABHの原因は・・・

なぜこのような血豆が形成されるのか、残念ながら原因ははっきりしていません。
私の場合、血縁者にABHを持つ人は全くいないので、遺伝性はないものと考えています。

熱で口腔内の粘膜が脆弱になることも一因とされています。
確かに、私は熱い物が大好きで、みんながフーフーして冷ましながら飲むお茶も平気です。
熱い物を控えるようにしたところ、発生頻度が大幅に減ったのは確かです。

文献的には、中年以降に多く、口腔アレルギーとの関連やステロイドの吸入剤を使用している人に多いなどとされています。
しかし、私の場合、少なくとも中学校の頃には既に発症していたと記憶しています。
一部のエビに対してのアレルギーはありますが、吸入ステロイドは使用していません。


◆ ABHの予防と治療

原因がわかっていないので、残念ながら確かな予防法はありません。
慌てずゆっくり食べろ、と言われるのですが、それは無理です。
原因となりそうな食材を注意深く食べていてもチクリ、と感じて血豆ができるケースもしょっちゅうです。
生きていくために摂食行動は欠かせませんので、根本的な予防法はないと考えて下さい。
ただ、熱い物が好みの方はこれを控えてみて下さい。
発生頻度が減る可能性があります。

治療法も確立していませんし、この疾患をしっかり理解している医師もほとんどいないので、病院に行っても特別な処置をしてくれるわけではありません。
そこで、私なりの対処法を紹介しておきましょう。

それは、できた血豆を爪楊枝でさっさと潰してしまうという荒技です。
先ほども述べたように、被膜は案外丈夫なので簡単には潰れませんし、場所によってはかなり痛いですけれども、頑張りましょう。
潰した後は中から血が出てきますが、基本的に血豆に貯まっている分だけしか出てきません。
ただし、血を残さないよう陰圧をかけるなどして絞り出すのが肝要。
少しでも残っていると治るのが遅くなるからです。
この処置が終わったら、アズレン系のうがい薬を使って1日に数回、口をゆすぎます。
アズレン系の薬は、痛みを和らげ傷を早く治す作用を持っていますので、欠かせない作業です。
これで、1~2日の間に気にならなくなります。
最近は、うがい薬に加えて半夏瀉心湯を処方することが多くなりました。
半夏瀉心湯も、アズレン系のうがい薬同様に口の中の傷を早く治してくれる働きがあります。
両方を使うことで、痛みの緩和や治りが早いと好評です。


◆ 日本語病名の提唱

個人的には、特発性食道粘膜下血腫という疾患との関連性はどうなのだろうかと注目しています。
内視鏡検査で、食道の入り口の手前の梨状陥凹という場所や食道にも血豆ができている例に遭遇することもあるのですが、いかんせんお目にかかるのが稀で、今のところABHとの関連は見い出せていませんが、口の中も食道も粘膜の構造は同じなので、食道で起きてもおかしくないと考えます。

もっと多くの症例を集積して知見の積み重ねが必要な疾患だと思いますが、この ABH という疾患名は病態をしっかり表現しているとは思いませんし、日本語名がないのは残念です。
そこで、この疾患を個人的にも抱えている医師として、日本語の疾患名を提唱してみたいと思います。

突発性有痛性口腔内血疱

いかがでしょうか。


関連するコラム
●  口内炎には半夏瀉心湯



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