種痘01連休中に鹿児島市立美術館で行なわれていた「京都市美術館名品展」に出掛けました。

展示されていたのはすべて女性を描いた日本画だったのですが、私が一番興味をそそられたのは太田聴雨の「種痘」という作品です。
右側の種痘を受ける若き女性の不安げな姿ももちろんですが、左端の接種する白衣の女性の緊張した面持ちも見事に描かれています。
今でも採血や注射って誰も好きではないと思うのですが、なぜか針先をじっと見つめてしまう方がほとんど。
余計に力が入って体が硬くなってしまいます。
描かれた女性も肩や指先に力が入ってますね。
なお、特徴的な脚を持った椅子は、当時世界的に大流行したものなんだそうです。

この作品が描かれた昭和9年当時はごく普通に見られた光景の一部だったに違いないのでしょうが、よくこのような場面を題材にしようと思ったものです。
おかげで、種痘の方法を全く知らない私には、医療の歴史を知る上での非常に貴重な資料にもなりました。
罹患すると半数近くが亡くなるという天然痘が種痘という手段で撲滅できたため、今では全く行われていない医療行為なのです。
種痘02
父に聞いたところ、種痘の方法を詳しく教えてくれました。
種苗の液を上腕に塗って、ペンのような形をしたメスで皮膚に十字の切れこみを4ヶ所入れるんだそうです。
基本的な原理はBCGと同じなんですね。

インターネットで情報が簡単に手に入る時代ですが、種痘に関して詳しいものはそう多くありません。
当たり前すぎて誰も記録しないような普段の何気ない日常の生活の様子は、時代の変化とともに徐々に忘れられ、案外後に残らないもの。
日常を切り取った絵や直接聞ける経験談を疎かにすることはできません。

種痘が廃止されて今年でちょうど40年。
そして5月14日は種痘の日です。
先人たちの努力で、今に生きる人たちが天然痘を始めとする多くの感染症の脅威を知らずに済むことに改めて感謝をしたいと思います。