沢井製薬の販売する胃薬、エカベトNa顆粒 ( エカベトナトリウム水和物 ; 先発品名ガストローム ) にアセタゾラミドという利尿剤が微量ながら混入していたとして自主回収が始まりました。
これが判明したのは、男子レスリング選手のドーピング問題がきっかけだったようです。
尿から禁止薬物の一つであるアセタゾラミドが検出されたものの身に覚えがなく、医師から処方された薬の分析を依頼したら、この胃薬に含まれていることがわかったそうです。
選手は疑いが晴れて何よりです。
また、「ひとつ上の品質」「確固たる安全性」を謳うメーカーには混入した経緯をしっかりと洗い出してほしいものだと思います。


さて、胃薬には様々な種類のものがありますが、エカベトナトリウム水和物は防御因子増強薬というものに分類されます。
バランス説1961年に発表された「ShayとSunのバランス説」というのがあって、消化液でもあり胃自身を侵してしまう可能性のある胃酸やペプシンなどを「攻撃因子」、その攻撃因子から胃を守る粘液やプロスタグランジン・胃の粘膜の血流などを「防御因子」とし、このバランスが乱れた時に胃炎や胃潰瘍が起こるとするものです。
エカベトナトリウム水和物はプロスタグランジンを増やしたりペブシンを抑えたりする働きがあるとされています。

胃炎防御因子増強薬のほとんどは「胃潰瘍」「急性胃炎」「慢性胃炎の急性増悪期」で使えることになっています。
慢性胃炎の急性増悪期」って一体何なのでしょう。
私は、消化器を専門分野として扱っていますが、正確には答えられません。
多分、誰も答えられないでしょう。

そもそも慢性胃炎の定義からして曖昧です。
臨床症状から診断することがありますし、内視鏡や病理の分野でもそれぞれの考え方があります。
ましてや急性増悪期となるとさっぱりわかりません。
医学書に出てくるような用語でもなく、消化器医の口を衝いて出る言葉でもありません。
それなのに「慢性胃炎の急性増悪期」を治す薬がたくさん存在しています。
不思議です。

ただ、私の処方で防御因子増強薬の出番は非常に限られますし、エカベトナトリウム水和物を使わなくなって随分久しいです。
今回の回収騒ぎには巻き込まれておりませんので、ご安心を。