<< 風邪薬についての考察 第11回 >>


かぜ子供は免疫が十分に備わっていないので、しょっちゅう風邪をひく存在です。
その都度、親御さんは病院に連れて行って、処方を受けたり市販薬を買って与えたりしていると思います。

その当たり前の光景が海外では見られなくなりつつあります。
効果がないばかりか有害性の危険が高いから、という理由で小児への風邪薬の使用が厳しく制限されるようになったからです。

米国で2008年1月に 2歳未満への小児への市販の風邪薬の使用を禁止するよう勧告が出されました。
それに続いて複数の国で同様の措置がとられ、一歩進んで英・加・豪・ニュージーランドでは 6歳未満に対しての使用制限を決めています。


市販薬だけではなく、我々が処方する薬の乳幼児に対する様々な報告を具体的にみていきます。

抗ヒスタミン薬
 ・鼻汁や鼻閉への効果がない
 ・気道の粘液分泌が減り、痰が出しづらくなる
 ・眠気や不整脈、熱性痙攣を誘発する
鎮咳薬
 ・小児での鎮咳作用を認めない
 ・乳幼児では呼吸抑制、無呼吸から突然死に至るという報告も
③ 去痰薬
 ・肺炎では症状の改善が早まるという報告もあるが、感冒への効果は不明
気管支拡張薬
 ・喘鳴を伴うウイルス性気管支炎で症状の改善効果はない
 ・症状の遷延や振戦などの副作用の懸念
抗菌薬
 ・ウイルス性の感冒に対する有効性はなく、副作用でかえって生活の質を下げる
 ・細菌の二次感染の予防効果はない

と、まあこんな具合。

日本の対応はというと厚労省が2010年末に「2歳未満の乳幼児には、OTC風邪薬を飲ませるより医師の診療を優先させるよう、購入者に情報提供すること」と、製造販売元に注意喚起を行なったのみ。
医師のもとに行っても、処方されるのは有効性に根拠の乏しいこれらの薬剤なのですが。


海外で風邪をひいて医療機関を受診しようものなら、家で寝てなさいと言われるだけか、せいぜいアセトアミノフェンの処方箋を渡されるだけでしょう。
風邪にはすぐ薬をという意識が刷り込まれている日本人は、コンビニエンスストアでも気軽に感冒薬が買えるようにする薬事法改正を歓迎していましたし、ネットで購入できることに何の抵抗感も示しません。

かく言う私も、かつてダンリッチという風邪薬を自分でも使い患者さんにも処方していました。
2003年に発売中止となった際に、当初はその措置に大切な商売道具を没収されたようで憤懣やるせない気持ちでした。
今にして思えば、情報収集力のなさと知識の乏しさが恥ずかしい限りです。
成分の一つである塩酸フェニルプロパノールアミンによって脳出血が引き起こされ、死亡例が相次いだための措置だったのです。

長きにわたって利用されてきた薬であっても、不利益が明らかになれば市場から消えるのです。
総合感冒薬は
18歳未満には効果が確認できないとされていますが、少なくとも乳幼児に対して我々は正しく対処していく時期に来ていると考えます。


 ⇨ 第10回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その2

 ⇨ 第12回 「風邪薬について、最後に」