野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して43年の野口内科です。
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逆流性食道炎

  << 胃食道逆流症 第6回 >>


GERD.gif食道と胃の境界部分が緩んでしまい、胃の内容物が食道に逆流することが 胃食道逆流症 ( GERD ) の原因であることはこのシリーズ第2回目で詳しく解説しました。
ですから、この緩みを改善することが根本的な治療となるわけですが、現在のところそれに対する有効な手段がありません。
内視鏡による治療や手術があることはあるのですがあまり一般的とは言えません。
でも一応解説しておきますね。

♦♦ GERDの内視鏡による治療

まず、内視鏡を用いた治療について。
緩くなった食道と胃の境界部分の補強を目的に様々な方法が編み出されました。
内視鏡の先端に器具を装着し糸で縫い縮める方法や、電気で焼いたり薬剤を局所に注射したりして内壁を肥厚させる方法などがあります。
しかし、いずれも採算性や安全性の問題から機器の供給が止まっていますので、現時点で内視鏡による治療はできないのです。
ただ、今後新しい機器や手段が出てくるものと思われます。
ちなみに、内視鏡治療を行なって半年後に薬を使わずに済むようになるのは6割から8割というデータが示されていました。

♦♦ GERDの手術

次に手術ですが、噴門形成術という方法が行なわれます。
欧米ではよく行われているようですが、日本で実施している施設ははごく限定的で症例数も多くはありません。
肥満をベースとした欧米の逆流性食道炎は重症例が多いことも日本との事情の相違でしょう。
体に大きな負担をかけてまで優先して行なうべき手段ではないと考えます。

♦♦ GERDに使う内服薬

そういうこともあって治療の基本は薬剤と日常のセルフケアが主体となります。
症状を改善させるのに最も期待が持てるのが内服薬の使用です。

逆流してくる胃液の酸度が弱ければ食道が傷つきにくく、症状も緩和されることが期待されるわけですから、治療薬として一番に用いられるのは PPI ( proton pump inhibitor ) と呼ばれる酸分泌の抑制効果が高い薬剤です。
PPI については 2年前に当ブログの記事にしたことがありますのでそちらを参考にして下さい。( → こちら )
また酸分泌を抑える目的で H2 ブロッカーという種類の薬も使われますが、使っているうちに効果が弱くなってくる傾向があります。

上記 2種類の薬は胃液を作る細胞に働きかけて胃酸を分泌させないようにしますので、既に分泌されてしまっている胃液には全く役に立ちません。
実際、服用してもらって自覚症状が落ち着くのに数日かかります。
液体の制酸剤や酸化マグネシウムがすぐに胃酸と反応して中和する作用があり、補助的に使うことがあります。
( なお、酸化マグネシウムには逆流性食道炎に対する直接の適応はありません。)

アルギン酸ナトリウムにも「逆流性食道炎における自覚症状の改善」という効能があります。
これも当ブログを書き始めて間もない頃に記事にしていますが ( → こちら )、一つには逆流性食道炎でてきた食道の傷の部分に成分が付着して保護する作用があるものと思われます。
そしてもう一つ。
実は逆流して悪さをするのは胃酸だけとは限りません。
胆汁や膵液といった消化液の逆流も GERD の原因になると考えられており、これが原因だと PPI や H2ブロッカーは全く歯が立たないわけです。
しかし、アルギン酸ナトリウムは胆汁酸と結合することがわかっており、その効果が期待できるわけです。
また膵液に関しては、カモスタットという薬に膵液中のトリプシンという酵素の働きを邪魔する作用がり、「術後逆流性食道炎」という病気に限って使うことが出来ます。

余談ですがカモスタットの商品名はフォイパンと発音するのに「フオイパン」と「オ」を小さく書きません。

長くなるので続きは次回にしましょう。

  << 胃食道逆流症 第5回 >>


経鼻内視鏡を行なう際に、大きく息を吸い込んでもらって食道と胃の境界部分を詳細に観察することを前回、述べました。
逆流性食道炎の場合、内視鏡で実際どのような変化が認められるのか、興味あるところだと思います。
Los Angels 分類別に写真を並べてもいいのですが、今回あえて一例だけ提示させていただきます。

♦♦ 提示した内視鏡像について

201008182132092576.gif泡がついていたり、下部がぼけていたりで掲載するのは恥ずかしい写真なのですがお許しくださいね。
さて、内視鏡検査において食道病変の場所を時計の文字盤に例えて示すのが慣例となっています。
写真の真上を12時の方向、真下を6時の方向とするわけです。
ちなみに12時方向はおなか側、6時方向は背中側、3時方向は右手側、9時の方向は左手側になります。
提示した写真の1時の方向に白く見えるのは潰瘍です。( 白い矢印 )
逆流性食道炎による潰瘍やびらんは Los Angels 分類の A や B の場合、2時方向を中心とした右上方の胃粘膜のひだの上にできやすいことがわかっています。
この理由につていははっきりわかっていませんが、この症例は典型的な例ですね。

この症例でもう一つ注目していただきたいのは食道粘膜と胃粘膜の境界 ( Squamo-columnar junction : SCJ ) です。
3時の方向 ( 青い矢印 ) の辺りと比べてみて下さい。
中央に見える胃の入り口を中心に考えると11時の方向と6時から9時にかけての方向 ( 黄色い矢印 ) にこの SCJ が極端にずれ込んでいますよね。
この症例の方は食後すぐに左を下にして横になる ( 左側臥位 ) 習慣があるとのことでした。
SCJ が3時方向に極端にずれている方に尋ねてみると食後の右側臥位がお好みというパターンが多いです。
逆流してきた胃酸にさらされて元々存在していた食道の細胞が胃の細胞に置き換わることで境界部分がずれたように見えてくるわけです。
ですからこの境界の偏りは食後や就寝時の体位が影響するのではないかと思われます。
内視鏡をすることでその人の普段の過ごし方もわかってしまうなんて面白いと思いませんか ?

しかし、私がこの症例でもっと面白いと思っているのは、この左方向を中心とした SCJ の大きなずれがあるにもかかわらず、潰瘍ができているのがあくまで右上だということです。
逆流性食道炎における粘膜傷害の発生にはいろいろな因子が複雑に絡み合っているのでしょうね。

なおこの症例の方、薬だけでなく食後にすぐ横ならないことを守ってもらい、減量もがんばってもらった結果、1時方向の潰瘍はすっかり消えてしまいました。

次回は胃食道逆流症の治療について。


  << 胃食道逆流症 第4回 >>


症状から胃食道逆流症 ( GERD ) が疑われる場合に優先してチョイスされる検査は内視鏡になります。
GERD に関しては採血やレントゲン、透視などからはほとんど得られる情報はありません。

♦♦ GERDの内視鏡分類について

内視鏡検査によって、異常が見つからない非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) なのか、はっきりとした傷がある逆流性食道炎 ( RE ) なのかがわかります。
後者の場合、内視鏡検査でさらに重症度の判定を行うことができます。
一般的に Los Angels 分類というものが使われています。( 右下図 )

2010072812462623081.gif専門的になるので簡潔に説明しますが、Grade A と B は縦方向の傷同士がつながっておらず、長さが5mmあるかないかで分類しています。
Grade C と D になると長さに関係なく、縦方向の傷が互いにつながってきたもので全周の75%に及ぶか及ばないかで区別してあります。
日本においてはさらに色調変化型 ( Grade M )、内視鏡的に異常のないもの ( Grade N ) を加えて活用しているのが一般的です。

♦♦ 経鼻内視鏡で胃と食道の境界をつぶさに観察できる

さて、GERD の診断確定のために重要となるのは食道と胃の境界部分の観察です。
これには経口よりも経鼻内視鏡の方が優れていると私は考えています。
写真をご覧ください。
同じ被験者で同じ場所を写したものです。
EC.gif左の写真ではほとんど見えていない食道と胃の粘膜の境界部分が右の写真でははっきりと見えています。
実は、最初左の写真の状態だったのですが、息を大きく吸い込んでもらうことで右のような状態になるのです。
こうすることで RE による傷があるかどうかのキモである食道と胃の境界をつぶさに調べることができるわけです。
鹿児島では経口内視鏡をするのに鎮静剤の注射をする施設がほとんどです。
意識がもうろうとしている時に検査を受けられている方に息を吸い込んで、と言ってもまず実行できません。
鎮静剤を使わないで経口内視鏡を行なう場合でもその余裕がなかったり、反射でげっぷが出たりしてゆっくり観察ができないことが多いのです。
苦痛を与えずにつぶさに観察でき、かつ検査を受けられる方にもじっくりとこの部分の傷の状態を見て納得してもらえるわけで、経鼻内視鏡は GERD の診断にまさにうってつけだと思います。

♦♦ 内視鏡検査中のげっぷ

なお、内視鏡検査の際にげっぷを我慢しろと言われたことはないでしょうか。
咽頭部の刺激による反射で起こるのも理由の一つですが、食道裂孔ヘルニアの方はげっぷが出る傾向が強いように思います。
私はげっぷも GERD の原因となる食道裂孔ヘルニアの所見の一つとみなしています。
胃の入り口を閉める筋力が落ちているわけですから、げっぷをするな、と野暮ったい無理強いをすることはまずありません。
げっぷをすると空気が抜けて胃の壁が近接してしまいますし、壁が激しく動いて観察に時間がかかってしまうために指示をするわけですけど、我慢しろと言われても無理なものは無理ですものね。


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2010070914065018686.gif♦♦ 胃液の逆流で起こる様々な症状

前回述べましたように、胃液が食道に逆流して胸やけや呑酸といった症状が起こることは納得できることと思います。
しかし、それ以外にも実にさまざまな症状が生じることがわかってきています。
それは・・・
胸痛、慢性の咳や喘息、咽喉頭症状、睡眠障害、中耳炎、虫歯、副鼻腔炎、肺炎や肺線維症などです。

♦♦ 逆流で中耳炎が…

中耳炎に関しては、中耳の浸出液を調べたらペプシンが検出され、胃薬を服用させて症状が改善したという報告がいくつかあります。
ペプシンは胃の主細胞だけが作る消化酵素で通常は中耳に存在しないはずですから、胃液の逆流が中耳炎の原因の一つになっていることは否定できません。

♦♦ 逆流で虫歯も…

虫歯と胃液の関係については今盛んに歯磨きのテレビCMでアピールされています。
体の中で最も硬い組織である歯のエナメル質の最大の弱点が酸ということもあって胃酸との関連性に興味が持たれたのでしょうが、胃食道逆流症 ( GERD ) で歯牙酸食の頻度が高いことが報告されています。
胃酸を中和する唾液が存在する口腔内で虫歯のすべての原因が GERD にあるわけでもないでしょうが、原因の一つとなりうると考えられています。

♦♦ その他にこんな症状も

他の疾患や症状についても、GERDの有無でグループ分けをしてGERDがあるとこれらの症状を有するものが多いこと、胃薬で症状が治る割合が高いことなどからGERDとの関連が推測されています。

実際、心臓の痛みだと思っていろいろ調べたけれども異常がなく胃薬を飲んだら胸痛が治った、とか慢性的に悩まされていた咳が胃薬で落ち着いたとかいう例をこれまでいくつか経験しています。

また、高度の貧血をきたす場合もあります。
胃液の逆流が原因で下部食道に高度の炎症をきたして慢性的にじわじわ出血している例を主に腰の曲がった高齢者で見受けることがあります。

胃酸の逆流が単に胸やけ程度にとどまらない多様な食道外病変を引き起こすことは理解いただけたと思います。
このGERDをチェックするのに重要なのはやはり内視鏡による検査となりますが、普通の経口内視鏡よりも経鼻内視鏡の方が威力を発揮します。
これについては次回。


  << 胃食道逆流症 第2回 >>


胃食道逆流症 ( GERD ) は、塩酸や蛋白分解酵素であるペプシンを含んだ胃液が食道に逆流することで生じます。
最近では胃液以外の逆流も注目されているのですが、これは機会があればお話します。
胃自身がどうして消化されないかというと、別に分泌される粘液の膜で表面を覆って保護しているからですが、食道にはそのような仕組みがありません。
このため強い消化液である胃液が食道に逆流してくると、傷ついたり様々な症状が生じたりするのです。

201006151614253985.gif♦♦ 胃液の逆流が起こる原因

逆流が起こる原因として下部食道括約筋部 ( LES ) の閉まりの低下が挙げられます。
この部分、本来は食道自体の筋肉による圧迫と横隔膜による食道の圧迫の二つが協調することで胃内容物の逆流を防いでいるのですが、この二つの圧迫部位がずれてしまうことがあります。
食道が横隔膜を貫く食道裂孔という場所から胃の一部が食道の方へずり上がってしまう現象を食道裂孔ヘルニアと呼んでいます。
右の図の左側が正常、右側がヘルニアの生じた食道と胃と横隔膜の関係になります。
本来なら食道下端が横隔膜に靭帯で固定されているのですが、飲み込む動作の度に食道が縮まりますし、加齢によって靭帯の働きも落ちてくるためずれが生じてしまうのです。
食道裂孔ヘルニアによって十分な圧が得られなくなり逆流を招くのです。
これとは別に一過性のLES弛緩というものがあります。
これは高脂肪摂取、大量の食物の摂取、胃運動機能の低下等で起こると考えられています。

♦♦ GERD の症状

GERDの症状として胸やけ呑酸 ( どんさん ) と呼ばれるものがあります。
前者は「心窩部から胸骨後方にかけて上方に向かって広がる熱感を伴う不快症状」、後者は「口腔咽頭への胃液の逆流によって自覚される苦酸っぱい不快な味覚、あるいは咽頭刺激症状」という定義がなされています。
「胸やけとはどんな症状のことですか」と聞いてみると、吐き気やおなかが張って苦しい状態のことを指す人もいれば、胸やけなのにそれ以外の言葉で表現する人もいることが分かっており、症状の定義があるのはおおいに助かります。
「下痢をしました」との訴えの方の話をよく聞いてみると、普段より便の回数が多かっただけで便そのものはいつもと形状が変わらない、というケースを経験したことがあります。
つらい症状を表現する時に患者と医師の間で言葉の認識に大きな食い違いがあっては診断や治療に支障が出てしまいますよね。
ちなみに、週 2回以上の胸やけ症状発現を病的なものとみなします。

♦♦ GERD の分類

GERDのうち内視鏡検査で食道粘膜に明らかな病変を見出せるものを逆流性食道炎、肉眼的に異常を認めないものを非びらん性胃食道逆流症と呼んでいます。
症状が同じでも内視鏡によって病変が確認できるかどうかで疾患名が変わってくるわけですが、これはまた別の回で。

胃液が逆流する現象で上のような症状が生じることは容易に理解できると思いますが、見当のつかないような症状が起こることもあります。
このことについて次回お話します。

♦♦ GERD の定義

なお、GERDは以下のように定義されています。
食道粘膜傷害性のある胃内容物の食道内への逆流によって
 ① 胸やけや呑酸などの定型的な自覚症状
 ② 下部食道粘膜のびらん潰瘍などの食道粘膜傷害
のいずれか、あるいは両方があるもの

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2010051422303218312.gif内視鏡を扱うようになってからちょうど20年経ちました。
この間に内視鏡の機器自体も進化して、観察・診断が中心だった用途が治療の領域にまで広がってきています。

わずか20年の間に日本の消化器疾患も随分様変わりしてきました。
内視鏡に携わり始めた頃は胃・十二指腸潰瘍の症例は日常茶飯事で、肝硬変に伴う食道静脈瘤も珍しくはなかったのですが、最近これらの疾患にお目にかかる機会がめっきり少なくなってきています。

逆に増加の一途を辿っているものもあります。
それを代表するのが胃食道逆流症
日本人の 2-3 割がこの疾患に伴う症状を自覚しているとされ、胃・十二指腸潰瘍の症例数よりも多くなってきました。
実際、上部消化管内視鏡検査をすると 15% 前後の人に食道炎の所見が確認できるとも言われていますが、今年はこの疾患について数回に分けて当ブログ上で考察していきたいと思います。


5f9d2xnu.gif「ムカムカする」「胃が重い」「胃がもたれる」「酸っぱいものが上がってくる」・・・。
胸やけとは具体的にどのような症状を言うのかを患者さんに聞くと、実は胃のもたれや吐き気、腹部膨満感などを表現していることもあるため、真の胸やけ症状であるかどうかを判別するのも医師の問診上の大切なポイントとなります。
このことは先日紹介した本にも記載されています。

先週参加した講演会では、この点について面白い話がありました。

それは、胸やけについて看護師や医学部の学生にもアンケートをとったところ、消化器医との間に認識の開きがあるというものでした。
胸やけを起こす代表的な疾患である胃食道逆流症 (逆流性食道炎)の病態から考えて、胸やけとはこのような症状だろうと医師の間では概ね共通した概念を持っているのですが、医療現場にいる人たちとの間にもズレがあるというのは大変興味深い話でした。

また今月上旬に新聞にも載った胃癌の内視鏡的術後の除菌についても話がありました。
早期胃癌を内視鏡で治療した後にピロリ菌の除菌をする群としない群に分け、3年間経過をみたものです。
除菌した群で癌の再発が4%にみられたのに対し除菌しない群ではその3倍の12%に達したということでした。
除菌しても再発があるのは、ピロリ菌感染で既に癌が生じた人を対象としており胃粘膜の状態が相当悪いからだと考えられます。
除菌しても 5年くらいは年に 1回の内視鏡で経過をみていくことが望ましいだろうという意見で、これは日常の診療に大いに参考にすべきものでした。


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